ABSパーツへの塗装による割れの原因と対策
こんにちは。
あなたはプラモの塗装でABSパーツを割った事はありませんか?
せっかく塗って仕上げたと思ったのに
動かしてみたらボロッと…トラウマものですよね。
そんな悲劇があるので、ABSパーツがあるガンプラの説明書にも
こんな記述があります。
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/698b35f2c92381d9ccb4d43084fff7af-300x189.jpg)
今回はこのABSパーツがなぜ割れるのか、
割れを防ぐにはどうすればいいのかをお伝えしていきます。
以前、ABSパーツの割れについての検証を行いました。
その検証により、割れの原因と対策を知る事ができました。
結論から言いますと、
「ラッカー系で塗装しない方が無難」
だと僕は思います。
以下でどのような検証を行ったかをお見せしていきますが
そちらを見てもらえば、なぜラッカー系をオススメしないか
分かってもらえるかと思います。
ではABSの割れについて詳しく見ていきましょう。
1.ABSの割れの仕組み
そもそも、ABSがなぜ割れるのか?という仕組みなんですが
まずこういうABSパーツがあるとしましょう。
可動軸によく使われている軸穴のついた形状です。
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/da78cf129477c0a043b1f9a158c7bb03-300x300.jpg)
プラモを組み立てる際に、このように
可動部の穴に別パーツの軸を挿し込みますよね。
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/ad43fb4c89aa770205d060ed80c8a7a2-300x279.jpg)
挿し込む時、それなりにはめ込みがキツいですよね。
その際に、挿し込んだパーツに負荷がかかって
目に見えない細かいヒビが入るんです。
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/52e1a5c7d2daee6f64f2dc80fa4f58f7-300x279.jpg)
そこを塗装すると、塗料の溶剤分が
細かいヒビに浸透してパーツがもろくなり…
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/3e5d513addee9ec8facda92d7bec9bca-300x279.jpg)
このように割れてしまうのです。
パキッと割れるというより、モロッと崩れ落ちる感じです。
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/1060b68eddd9f5fa2b8abaf478cd544d-300x279.jpg)
ABSの塗装による割れの仕組みはざっくり言えばこのようになります。
ABSパーツを塗装で割ってしまった方はこういうパターンではないでしょうか?
塗料の溶剤の浸透による割れなのですが、
塗料にもラッカー・水性アクリル・エナメル…と
色々種類がありますよね。
ここからが本題なのですが
どの溶剤ならABSが割れるのか実験していく、
というのが今回行った検証内容です。
2.ABSの溶剤による割れ実験
2-1.検証内容
検証内容の詳細をご説明しましょう。
こういうABSランナーを使います。
すみっこにパーツの番号タグがいくつもありますね。
1番とか2番とか。
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/2e80732869f61e97532980854ae5f251-300x183.jpg)
ここに穴を開けて、ランナーを挿し込むんです。
ちょうど先ほどの図のように、穴付近に負荷をかけてやるんです。
挿し込むランナーは3mm径ですが、開ける穴は2.9mmにして
挿し込みがキツくなるようにします。
そっちの方が穴付近に負荷がかかるので。
で、こんな風に2.9mmの穴をぽこぽこ開けました。
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/4087115d7383bf05a4d1429808612274-300x141.jpg)
ここにランナーを挿し込んでから、付近に各種溶剤を塗って
ぐりぐりランナーを動かして割れるかどうか、という実験になります。
1回では正確なデータに欠けそうなので、3回ずつ行います。
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/c46e83dacdc61aec2f25af5157e7b8ac-300x246.jpg)
ABSにも、バンダイのものとコトブキヤのものとで
若干成分が違うようなので、両方で実験してみます。
2-2.溶剤ごとの実験
では、使用した溶剤と結果をお見せしましょう。
クレオス Mr.カラーうすめ液。ラッカー系。
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/a6ce2d5efa0aa47be16a23830226172d-292x300.jpg)
ぐりぐりしたらランナーがボロボロ崩壊していきました。
全滅です。
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/WS000086-300x50.jpg)
ガイアノーツ モデレイト溶剤。ラッカー系。
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/82cd9241ce850ef77354d9411a20e4ba-263x300.jpg)
ガイアノーツ T-07h モデレイト溶剤 (特大) 1000ml
Mr.カラーうすめ液同様。
全滅です…。
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/WS000087-300x48.jpg)
マジでこんな風になります。
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/23e73418f2343aae05715def8b0e65da-217x300.jpg)
タミヤ ラッカー溶剤。
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/a11a1e72bb593683e8d7592a9227ab1d-253x300.jpg)
タミヤ メイクアップ材シリーズ No.77 ラッカー溶剤 (250ml) 87077
上2つと同様。
全滅です。。。
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/WS000088-300x48.jpg)
タミヤ エナメル溶剤。
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/eb51cd7b99012895cd9e23cc7af61fd0-300x265.jpg)
プラを割る事で悪名高いヤツですが、ABS相手では
なんと割れませんでした!
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/WS000089-300x46.jpg)
ジッポーオイル。
エナメル塗料の拭き取りとかに使いますね。
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/2a9be411f9d2302f0ce85750810abaf0-239x300.jpg)
ZIPPO(ジッポー) Zippo オイル缶 【大缶355ml】
ちょっとゆるくなった感じがありましたが、
タミヤエナメル溶剤同様割れませんでした。
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/WS000090-300x46.jpg)
クレオス Mr.ウェザリングカラーうすめ液。
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/45f2e49fa40aa15f3c009eef8a52295e-265x300.jpg)
GSIクレオス WCT101 Mr.ウェザリングカラー専用うすめ液 110ml
割れる気配がありませんでした。
エナメル系、結構ジャブジャブ塗ってるんですが
割れませんでしたね。
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/WS000091-300x67.jpg)
クレオス 水性ホビーカラーうすめ液。
水性アクリルのアルコール系溶剤です。
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/4d3d8d85e05aab14db6d8932cb38acbf-221x300.jpg)
GSIクレオス 水性ホビーカラーうすめ液 400ml T111
ちょっとゆるくなった感じがありますが、
割れませんでした。
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/WS000106-300x63.jpg)
クレオス アクリジョン エアブラシ用うすめ液。水性。
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/b751c17706b923c6a844f06fc37b55f1-251x300.jpg)
なんでも、クレオス公式でアクリジョンはABSに塗れる、
との事なので、大丈夫だとは思いましたが
やはり割れませんでした。
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/WS000093-300x63.jpg)
ファレホ エアブラシシンナー。水性。
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/3d5418c72033cc9c21d25ede2bd2c214-272x300.jpg)
こちらもボークス店員さん情報で割れないとの事なので
試してみましたが、何事もなく割れませんでした。
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/WS000094-300x65.jpg)
ペンもいきます。
ガンダムマーカー流し込みスミいれペン。
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/5ba7f80c0cda7296de36cb71547c6e76-300x126.jpg)
GSIクレオス ガンダムマーカー 流し込みスミ入れペン グレー GM302
実は小さくこんな注意書きがあるんですが
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/bb39d516e1205ffd528bed9cdbcaaf61-300x213.jpg)
ウソではありませんでした…。
ランナーがボロボロ崩れていきました。
でも奇跡的にコトブキヤのABSは一つ耐えました。
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/WS000095-300x64.jpg)
ガンダムマーカー消しペン。
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/982fb65dbeda7ca1c2c30006b9090195-300x125.jpg)
凄まじい勢いでランナーが崩壊しました!
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/5010b31bf2feade28559ca4971fb6c66-300x176.jpg)
塗ってない所まで崩れていきました…これは危険です!!
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/WS000096-300x65.jpg)
タミヤ スミ入れ塗料。
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/ec1c6116b1859df08a0c31337d6f4cbd.jpg)
エナメル溶剤同様、割れませんでした。
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/WS000097-300x49.jpg)
クレオス Mr.ウェザリングカラー。
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/7307037e005867943a81e15461f27c62.jpg)
うすめ液同様、割れませんでした。
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/WS000147-300x50.jpg)
2-3.割れテスト結果
割れテストの結果はこうなりました。
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/WS000114-250x300.jpg)
ラッカーは悲惨な結果…全滅です。
意外なのが、エナメルには結構耐えるみたいですね。
通常のPS素材で同じ実験やると割れそうですが。
この結果が出てしまった以上、僕としては
ABSにラッカー塗装はマジでおすすめしないんですが
それでもどうしてもラッカーで塗装したい!
という方のために、ABSをラッカー塗装するにはどうすればいいのか?
という実験を行いました。
3.ラッカーでの塗装実験
3-1.ガイアカラー
先日、twitterでフォロワーの模型誌ライターの
鋭之助 初代 日野さんという方から
こんなリプライを頂きました。
ジャジャ~ン!
— 初代@しばらくは教室を頑張りましょう! (@cv09essex) September 21, 2019
実はガイアカラーとは、FOK(藤倉応用化工)というメーカーが昔から販売していたABS用塗料、アクセルカラーを小分けしたものなんですね~。
つまり、ガイアカラーは本来ABS用塗料なのよ。
ガイアカラーってラッカー系なんですが、気になったので
試しにコレでABSを塗ってみることにしました。
先ほどのように、穴にランナーを挿して負荷をかけた状態で
ガイアカラーを原液で塗ったり
モデレイト溶剤で薄めて塗ったりしてみました。
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/3ab7e75547ee72744ba53ff551b87a29-300x282.jpg)
すると、こんな結果に。
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/WS000100-300x68.jpg)
原液で塗るのは何ともないようなのですが、やはり濃くて
塗りづらいです。
溶剤を足して1:1で塗ってみると、
バンダイのABSは割れましたが
コトブキヤのABSは割れませんでした。
そこで、バンダイは少し濃い目にして
塗料1:溶剤0.5で塗ってみると大丈夫でした。
変わってコトブキヤはさらに薄めて
塗料1:溶剤2にして塗ると割れました。
塗料に溶剤分が増えると、さすがに割れるようですね。
溶剤は少なめで塗った方が危険度は減るでしょう。
3-2.サーフェイサー後の塗装
ABSを塗装するにはまず下地にサーフェイサーを吹くといい、
とも聞くので真偽はいかほどか、とこれも試してみました。
サーフェイサーの上から先ほどの条件でガイアカラーを塗ってみると
このような結果に!
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/WS000101-300x64.jpg)
塗料1:溶剤2でも割れなくなりました!
サーフェイサー、効果あるようですね!
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/e1ba01532d03b34322415272c85275e7-251x300.jpg)
ただ、サーフェイサー自体もラッカー系なので
エアブラシでシャビシャビに溶剤で薄めて
至近距離でドバ吹き…なんて事をやると
割れると思います(試してはいませんが)。
せっかくなので、ABSキラーのガンダムマーカー消しペンも
サフの上から塗ってみました。
コトブキヤが1つ割れましたが、結構割れが防げているようです!
ただ、消しペンはサフを溶かすのであまり実践的ではないかも…。
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/WS000103-300x53.jpg)
GSIクレオス Mr.サーフェーサー 1000 徳用 スプレー 170ml ホビー用仕上材 B519
3-3.エアブラシ塗装
また、エアブラシだとサフなし直吹きでも
遠くからうっすらと吹いていくのを繰り返していくと
このように。
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/WS000102-300x64.jpg)
近くでドバ吹きすると、溶剤ごとべちゃっとパーツについて
それが割れの原因となってしまいます。
遠くから吹くと、パーツに塗料が付着するまでに
溶剤分が揮発するので、溶剤による浸透をなくす事ができます。
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/2cf3587e2a984cfe198fc9a7ec8fdbad-300x214.jpg)
3-4.パーツをはめ込む前に塗装
冒頭のパーツの説明でヒビの説明をしましたが、
「そもそもヒビが入る前に塗ればいいんじゃないの?」
と思われた方もいるかもしれません。
で、実際にどうなるかやってみました。
ABSパーツを切り出す前にラッカー溶剤をパーツに塗り、
少し乾かしてからパーツをはめ込むと
割れずに可動させる事ができました!
![](https://kyo-atelierblog.com/wp-content/uploads/2019/11/75f9126655f759f0829a98863267bf42-300x209.jpg)
ABSパーツは組む前にランナー状態で塗装してしまうのも
一つの手かもしれませんね。
塗装の際は念のため注意を払った方がいいでしょう。
3-5.ラッカー塗装まとめ
ABSをラッカーで塗装するには
・筆塗りならガイアカラー。溶剤は少なめで
・下地にサーフェイサーを吹いてから塗装するとリスク減
・エアブラシなら遠くからうっすらと何度も重ねて吹く
・いっそ組む前に塗る
また、検証はしていませんが
ガイアマルチプライマー(ミッチャクロン)を下地に塗ってから
塗装すると良いようです。
割れの確率がゼロになる訳ではないでしょうが…。
4.おわりに
後半はラッカーでの塗り方を紹介しましたが、
ラッカーは前半の実験にて溶剤直塗りで割れが確定している以上
ラッカー系でABS塗装をやって「絶対に」割れない方法は
多分ないでしょう。割れのリスクが少なからずあると思います。
なので、何度も言いますが僕個人としては万全を期すなら
「ABSにラッカー塗装はやらない方がいい」
のを強く推奨します。
できるならファレホかアクリジョン。
ラッカー塗装については自己責任でよろしくお願いします。
説明書の注意書きの通り、オススメできません(笑
ではまた!